突如、ぼくに翼がもたらされた。
突如、ぼくに翼がもたらされた。
肩甲骨の部分に、あたかも生まれつき備わっていたかのような自然さで、ぼくはふたつの翼を感じた。
窮屈に折り畳まれていた双翼がパキパキと高い音を立てて、ぼくの背後に大きく広がる。
関節の鳴る振動が背骨を伝わって、身体中の小骨がやわらかく震える。
風のあおりを受け、ぼくはぼくの強靭な翼のかたちを認識した。
ぼくには、ぼくの背中に生える翼の全貌が見えない。
それでも、宙に散らばる白銀とも黄金ともつかない神妙な色の羽を見て、ぼくの神経には絶大な自信が駆け巡った。
その自信は、ぼくという個体の存在を根拠にした自信ではなく、
このセカイは強くうつくしく壮大で、
ぼくはセカイの一部分を背中に抱え、いまにもセカイと解け合いつつあるのだ、という、
セカイそのものとしての絶大な自信だった。
その自信はぼくに、生まれて初めての完全なる安堵を感じさせた。
ぼくは飛ぶ。
翼を動かすのに力は要らなかった。
ぼくは浮くように宙を舞い、冷え込んだ-1℃の空気を切り裂くために翼を尖らせた。
朝6時23分の東京の街はぼんやりと青白く光り、
ビルとビルの隙間から細く溢れ出した朝日を浴びて、ほんの少しの橙色を帯びていた。
こんなにも完全な安堵。
加速するぼくの視界には、空と天との境界が近付いてくる。
あの透明な濃紺色をした境界を越えることに、生まれた瞬間からずっと憧れてつづけていたような気がした。
こうしてぼくの無意味な肉体は、灰色のコンクリートに叩き付けられたのだった。
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何となく、そうやって終わることを期待しているような感じがする。